結婚商売【２０４話】ネタバレ

５月。

ビアンカが妊娠してからもう半年が過ぎた。

やっとビアンカのお腹が目立って大きくなり始めた。

もともと痩せている上にお腹までスラリとしていて、子供が一体どこにいるのか、元気なのか心配していたが、活発な胎動にようやく皆が一安心する。

今まで心配したことが滑稽にも子供の動きがどれほど活発なのか、一日中ひっくり返して暴れ回るほどだ。

胎動にビックリして目が覚めるのが日常茶飯事だった。

睡眠不足な上に、最近ビアンカは腰が痛くて長く歩くことができず、簡単に座り込むのが常だ。

ザカリーをはじめ側近たちの心配も大きくなっていく。

まもなくビアンカはじっと部屋に横になって時間を過ごさざるを得なくなった。

領地に出るのはどれくらい久しぶりだろうか。

ビアンカが部屋を出るしかないことがあった。

まさにガスパルとイボンヌの結婚式だ。

領地民の祝賀の中で、いよいよ二人の結婚式の日が到来する。

結婚式はアルノー城の晩餐会で行われた。

普通、家臣の結婚式だからといって城の晩餐会を明け渡すことはなかったが、今回だけは例外だ。

イボンヌとガスパルはビアンカをそばで守った重役たち。

十分に晩餐会場を明け渡す資格があっただけでなく、体の重いビアンカが結婚式に参加すると言ったのだから、城から一番近いところで結婚式場所を決めなければならなかった。

ビアンカが言い張ったおかげで、５月の花嫁になったイボンヌは、他のメイドたちに囲まれ、普段より良い服を着て綺麗に整えられた。

いつもねじっていた薄茶色の髪を綺麗に編んでおり、合間に花で飾った。

女中たちが大騒ぎしながら綺麗だと口を揃える。

「ガスパル卿も今日だけは目を見張るでしょう」

「何言ってるの。ガスパル卿は、いつもイボンヌを見るたびに目が丸くなっていたわ」

「ああ、こんなに綺麗なのに。ベールがないのは少し残念だね」

「しょうがないわ。私たちのような平民の結婚式にベールは贅沢品じゃない」

女中たちはイボンヌの髪を撫でながらお喋りをする。

イボンヌは少し笑った。

ベールがなくても、彼女は十分幸せな花嫁だった。

その時、イボンヌのいる部屋にビアンカが訪れる。

部屋の中にいたメイドたちをはじめ、イボンヌまで皆ビックリした。

イボンヌが席から立ち上がろうとすると、ビアンカが手を挙げて阻止する。

「座ってなさい、イボンヌ。お祝いの挨拶をしに来ただけなのだから」

「奥様、ここまでどうやって・・・！」

「あなたは今それが重要なの？」

「もちろんです！」

ビアンカが呆れて問い返すと、イボンヌは思索になった顔で叫んだ。

そうでなくてもビアンカは人見知りをして、そばに誰でも置かない方だった。

今日、結婚当事者であるイボンヌは仕方がなくビアンカのそばを守れなかったため、ビアンカは一人同然だった。

心配し続けるイボンヌに、ビアンカは「一人で大丈夫」と一蹴した。

だからといって心配を簡単に手放すことができなかった刹那に一人で登場したビアンカの姿は、イボンヌを当惑させるのに十分だった。

女中であるイボンヌが公爵夫人であるビアンカに大声を上げる姿に、他の女中たちがビックリしてイボンヌをぼんやりと眺める。

しかし、ビアンカはあまり気にしておらず、彼女は肩をすくめて答えた。

「心配しないで。公爵様が前まで付き合ってくださったから」

その時になってようやくイボンヌは安堵する。

花嫁の控室に来るのは親しい友人、あるいは家族だけだ。

ビアンカがわざわざ控室まで訪ねてきたことに感激したイボンヌの言葉の末に水気がついた。

「宴会場でお会いしても良いのに」

「これを先に渡したかったから」

大したことではないかのように、軽く渡す言葉とともにビアンカが包みを差し出す。

みんなの目がビアンカが渡した物に注目した。

ビアンカが渡す物だから普通の物ではないだろう。

イボンヌが包みを解いている間、皆は息を殺してその姿を見守った。

包みの中に現れたのは長くて華やかなレースのベール。

いい絹糸を使ったのか、レースは絹のようにキラキラと輝いていた。

同じ大きさの黄金を乗せても買えないほど貴重な物に皆の目が丸くなる。

まして、ビアンカ、彼女が直接編んだものではないだろうか？

「花嫁なのだから、ベールがあるべきでしょう？」

照れ臭くなったビアンカが首を傾げた。

人の感嘆を聞くのは慣れていたが、完全に好意で贈り物をするのは初めてだ。