結婚商売【１６３話】ネタバレ

ただビアンカを妻として迎えることになれば、アラゴンとの約束を破ることになる。

最初はビアンカをただの情婦にするつもりだったが・・・、聖人である彼女とアラゴンの王女。

天秤にかける必要もなく、ビアンカを妻にする方がずっといい。

相手が聖人ならアラゴン側も契約を破ることについて理解してくれるだろう。

いざとなったら結婚を延ばしてもいい。

本当に理解してくれなくても構わない。

聖騎士団さえ後ろ盾になってくれれば、あえてアラゴンとの同盟を続ける必要もないだろうから。

アラゴンは直ちにビアンカの心を変えるまで同盟を維持すればいい。

ジャコブは陰険な本音を隠し、断固として厳粛な表情を浮かべた。

「今アルノー伯爵が帰ってきたら、戦争を支援してくれなかったあなた方と私に報復するでしょう。彼はきっと私たちに恨みを抱いているから」

ザカリーの報復を思い出した貴族たちが葛藤し始めると、ジャコブはそれに楔を刺した。

「もしかしたら、アルノー伯爵の彼は、ラホズの血筋を追い出してアルノー王家を建てようと企図することもできるのではないでしょうか？そうなると私たちは終わりです」

「アルノー王家ですって？とんでもない話だ！」

そう話すウィグ子爵の顔は真っ赤だ。

場内が騒がしくなると、ジャコブはそっと手を上げた。

すると、あっという間に貴族たちが黙って静かになる。

貴族の注意を惹いたジャコブは厳粛に話した。

「アルノー伯爵、彼は聖人ではない。聖人は彼の妻に過ぎない。彼には何の名分もありません。考えてみれば、聖人の彼女が夫に利用されていることもあり得るのではないでしょうか？私たちは彼女にもっと自由に選ぶ機会を与えるのだから、神を欺くのではありません」

ジャコブはビアンカを手に入れるかどうか、それが彼が王位に就くかどうかの可否と関係があることが今やハッキリと理解した。

彼女は自分の王冠だった。

必ず掴まなければならない王冠だったのだ。

考えてみれば、そもそもこうなるべきだったのだ。

ジャコブの目についた時から、ビアンカは自分の女にならなければんらない運命だった・・・。

流れる水のように流暢なジャコブの言葉に、貴族たちは取り憑かれたようにぼんやりと頷く。

ジャコブは決断の時期が到来したことを知らせた。

「私の意思に同調する人は残り、同調しない人は帰ってもいい」

大部分は席にそのまま座っていたが、敬虔な一人の子爵が憤慨して席から飛び立つ。

「私はいくらなんでも、聖人のいらっしゃる所に向かって刃先を突きつけることはできません。王子様のご希望が叶いますようにお祈りしますが、私はここまでだと思います」

「しょうがないね、オスロ子爵・・・。それじゃあさようならだ、見送りはしない」

ジャコブが快く彼を送り出した。

あまりにも爽やかな態度に貴族たちはお互いに顔色を伺う。

じゃあ、あえて危険を負う必要はないのでは？

ジャコブの主張に同意しなかった何人かの人々が立ちあがろうとする。

しかしオロス子爵が部屋を出て間も無く、男の悲鳴が響いた。

「ああああっ！」

密会室まで響く壮絶な悲鳴にもかかわらず、ジャコブはまだニッコリ笑っていた。

「旅立ちたい人はいつでも言いなさい。私は快く理解するから」

その言葉を聞いて誰が立ち上がれるだろうか？

みんな席に固く座ったままびくともしない。

「あなたたちの忠心がそうだなんて、私は感慨無量だ。それでは、この場にいる皆が私の意思に従ってくれると信じます」

すべてはジャコブの望み通りに進んだ。

しかし、貴族たちを完全に信じることはできない。

彼らの中でジャコブと似たような下心を抱いている人がいないと確信できなかったからだ。

ジャコブはビアンカを確実に手に入れるためにも直接出場するつもりだった。

首都を空けることに不安を感じないわけではない。

しかし、首都はガランとしている。

ゴティエの死で身動きもできない父親と俗物的な王女、無力な王妃・・・、自分が心配するほどのこともないだろう・

もし何かあってもビアンカを手に入れたら解決するから構わない。

もちろん、彼女を手に入れるだけでは安心できなかった。

ジャコブは損をするのが大嫌いだ。

すべてが完璧に回ることを望んだだけに、万が一まで警戒した。

ちょうどまた別のいい考えが浮かんだ瞬間、ジャコブの顔が陰険に輝いた。