結婚商売【１５９話】ネタバレ

聖騎士団を率いていたのは聖騎士団団長、アンリ卿だった。

彼は信実の神の使徒であり、神のためならその一身を捧げることに躊躇しない男。

聖人の登場によって大いに励まされた彼は、自分が今回の聖戦に参加することになったことに対して栄光の喜びを隠すことができなかった。

アラゴン軍の討伐は完璧だ。

抵抗勢力がないことを確認したアンリは、ザカリーの元に馬を走らせる。

二人に面識はないが、アンリ卿はすぐにザカリーが誰なのか見分けることができた。

圧倒的な威圧感を銀色の髪の美男。

ザカリーは近づいてくるアンリを歓迎する。

「私は聖騎士団団長のアンリです」

「アルノー伯爵です。参戦に感謝します」

ザカリーは淡々と彼を迎えた。

むしろ興奮に満ちていたのはアンリの方だ。

ザカリーを眺めるアンリの目には感激が満ちていた。

聖人のビアンカがまさにザカリーの妻だということもそうだが、彼女が何よりも切実に望んでいるのがザカリーの生存ではないか。

聖人の風は神の風。

それはすなわち、神がザカリーの死を望まないということと同じだ。

ザカリーを救うための栄光な任務に自分が動員されたのは言葉では言い表せない光栄だった。

神の意思に従う者として申し分ない栄誉に感激したアンリの声は和らいだ。

「何を仰いますか。聖人が要請されたのは、すなわち神の意思に相違ないことです。私たちは神の意志を守るために努力したまでです。むしろ参戦が多少遅くなり申し訳ありません、伯爵様。聖人の連絡を受けて急いで軍を出場させたのですが、人数が人数なので遅れてしまいました」

実際、法王庁の位置と現在戦争が勃発した場所の位置を比較してみると、聖騎士団は決して遅れたわけではない。

むしろ期待もしなかった支援軍の助けを受けることが出来てありがたいだけだった。

そうしてザカリーとアンリはお互いに体面を整え、真心半分が入り混じった挨拶を交わす。

彼らの態度がとても身近に見え、事情を知らない周辺人たちは戸惑いながら互いに視線を交わすだけだ。

「伯爵様は聖騎士団が私たちを助けると知っていたのか？」

「聖人の命とは？」

「セブランに聖人が現れたって言ってたけど・・・、噂は本当だったみたいだ」

「でも、どうして私たちの元に支援軍を？偶然なのか・・・」

兵士たちと騎士団がざわめく間、アンリが青天の霹靂のような話を切り出した。

「聖人ビアンカ様が私たちの要請したのはアルノー伯爵の生還。私たちが全力で守ります」

アンリの言葉が落ちるやいなや沈黙が崩れる。

皆の口が開いたまま、自分が聞いた衝撃的な言葉を頭の中で何度も噛み締めた。

聖人・・・、ビアンカ様・・・？

あのビアンカ？

彼らが知っているあの？

ベールに包まれた聖人の正体が、まさに彼らの夫人であるビアンカだって？

人々は信じられないようにお互いを見る。

何度噛み締めても、ビアンカと聖人について簡単に一致させることができなかった。

彼らが知っているビアンカに関することを並べれば、尊大な性格、気難しい性格、贅沢に道が開いた女性・・・。

全て肯定的でない、聖人とは全く正反対の要素だった。

もしビアンカが聖人だという話を聖騎士団団長から聞かなかったら、そのような冗談を言えば天罰が下るかもしれないと笑っていたかもしれない。

それほどに想像もできないことだった。

神の言葉は疑っても、神を信じる聖騎士団を疑うなという言葉がある。

だからアルノー軍も信じるしかなかった。

「お、奥様が聖人だなんて」

ソヴールが舌を巻いた。

信じなければならないが、ただ信じるのは容易なことではない。

彼が今まで知っていた現実と事実の差が大きいだけに。

ロベルの反応もさほど変わらない。

彼の頭の中に過去にビアンカに対して抱いていた不平不満が溢れ出た。

その全てが自分の偏見だったことに気づき、穴があれば入って隠れたかった。

みんな簡単に話ができないままザカリーを見る。

彼は果たして、ビアンカが聖人であることを知っていたのだろうか？

答えはザカリーの淡々とした顔が代わりに答えてくれた。

ザカリーは全てを知っているようで、揺るぎない落ち着いた顔で静かに頷きながら聖騎士団の言葉に同意する。

「心強いね。私も妻に生きて帰ると言った。念の為、あなた方の助けが切実です」

ザカリーの確言に皆口が開いた。

聖騎士団が聖人の名前をかけて嘘をつかない人たちなら、ザカリーは自分の妻の名前をかけて嘘をつかない男。

そのように本人の納得がなかったにもかかわらず、ビアンカが聖人であることが明らかになった。