結婚商売【１０３話】ネタバレ

ビアンカがこの上なく冷静に分析しているのとは異なり、カトリーヌはビアンカの優しい返事に感激するだけだった。

上気した表情で一歩近づくカトリーヌの声が小さく震える。

「それじゃあ私たち親しくなれるでしょうか？友達になってください」

カトリーヌは喜んで声を上げたが、すぐに自分が興奮しすぎたという事実に気づき、声の先を曇らせる。

カトリーヌは社交界の会話に弱かった。

自分が気の利かないこともよく知っている。

普段は口をぎゅっと閉じてぎこちなく笑いながら頷くように周辺対話に埋もれていたが、今日は誰かが背中を押すように焦ってばかりした。

（もう少し雰囲気を見て、それとなく提案するはずだったのに・・・）

後悔したが既に撃たれた矢だ。

カトリーヌは目を丸くしてビアンカの顔色を伺う。

ビアンカがどのように応えてくれるか待つ時間がこの上なく長く感じる。

ビアンカは簡単にカトリーヌの提案に答えることができなかった。

ある程度の親交、利益、計算的な下心などには慣れていたので、ダボビル伯爵夫人のカトリーヌと楽しく過ごすことができ、そのつもりだった。

しかし、友達だなんて・・・。

前世と現世を通じて友達と呼べるほどの人が一人もいなかったビアンカは、友達が何なのか到底分からなかったのだ。

ビアンカがどのように答えるべきか悩みながら固まっている間、カトリーヌの顔は刻々と変化していく。

二人が気軽に話を続けられないまま沈黙していると、聞いていたオデリーが助け舟を出した。

「そういえば、二人は同じくらいの年齢でしたよね。ダボビル伯爵夫人は今年１９歳になりましたか」

オデリーはビアンカやカトリーヌより１０歳年上なので、彼女の目には二人の様子がただ微笑ましいだけだ。

恥ずかしながらも友達になろうとするカトリーヌや、おおらかそうでありながらも友達を作ったことがないのが目立つビアンカ。

このような状況を作り出したのは、おそらく有名なカトリーヌの夫の策略だろう。

裏事情を把握したオデリーの口元がニッコリと上がる。

「同年代の友達が一人や二人くらいはいた方がいいと思います。特に女性はですね。男が女を完璧に理解してくれるかもしれないでも、それにしても完璧に共感してあげることはできませんから」

男が女に共感できないという言葉に、ビアンカは思わず首を振った。

カトリーヌも同様だ。

妻には限りなく寛大な人として有名なダボビル伯爵や戦場の英雄であり、ビアンカが欲しいものは何でも叶えてあげるためにセブランを越えて他国まで人を送るザカリー。

二人とも夫として不足のない人物という評価を受けたりもしている。

しかし、それでも彼女たちは内心不足している点を感じいた。

それは夫を愛することとは別の問題。

カトリーヌは感心しながらぼんやりと呟く。

「わあ・・・、王女様は結婚していないのによくご存知なのですね」

「よく知っているから結婚していないのかもしれないし、結婚していないから詳しいのかもしれませんね。私にも同年代の友達はいますから。もう殆どが結婚していますけどね」

肩をすくめるオデリー王女の憂愁に満ちた笑顔が一際寂しそうに見えた。

彼女の同年代の友人たちが今はどのように暮らしているか見当がつく。

結局カトリーヌが提示したことなので、結論はビアンカが下さなければならなかった。

ビアンカは気を引き締めて大きく息を吐く。

決断した彼女はまっすぐカトリーヌを見つめた。

ビアンカと目が会うや否やカトリーヌの肩がビクッとしたが、今回は視線を避けない。

「いいですよ、ダボビル伯爵夫人。先に提案してくださったので、私も恥ずかしながら告白します。正直、友達になろうという提案はありがたいのですが、私には友達がいません。そのため、友達がどんな存在なのか、どのように関係を結ぶべきなのかよく分かりません」

ビアンカの言葉にカトリーヌの目が大きく開いた。

今にも涙を流しそうな勢いだ。

彼女を泣かせるつもりではなかったビアンカは慌てて話を続ける。

「それでもよければ、私と友達になってくれませんか？」

「・・・も、もちろんです！私頑張ります！あの、私も友達がいないのでよく分かりませんが・・・！」

カトリーヌがニッコリと笑う。

盲目的なほど真っ直ぐな目つきにビアンカは思わず一歩後ろに下がる。

イボンヌがそばにいて、ザカリーとも良好な関係を維持するようになった。

けれど、ビアンカは依然として誰かが自分を好きになってくれるという事実にぎこちなくなってしまう。

後ろで見守っていたイボンヌの顔に満面の笑みが浮かぶ。

まるで大成した子供を見つめる母親のような姿に、彼女のそばにいたガスパルが小さく首を振った