悪女なのにママになりました【９３話】ネタバレ

「カリックス？」

私は不審な声で呼んだ。

しかし、カリックスは微動だにしない。

怪しさはすぐに当惑に、当惑は不安に広がった。

「カリックス、どうしたんですか？」

声を震わせながら尋ねたが、彼からの返事はない。

私は再び彼を呼ぼうとした。

「カリッ・・・」

それから彼は突然起き上がり、ベッドの下に転がり落ちた。

「カリックス！」

私は当惑して叫んだ。

そして急いで立ち上がり、彼のそばに近づこうとする。

でもカリックスは私から遠く離れて、ポタポタと切れた声で阻止した。

「来ないで・・・、くれ・・・」

彼は心臓を掴んで床に頭をぶつける。

彼の額に血筋が突き出て、太い汗がポタポタと落ちた。

固く閉ざされた唇からは苦しい呻き声が流れる。

「く、くぅ・・・」

「カリックス！」

近づこうとすれば彼は「絶対にダメだ」という目つきで私を眺めた。

私は立ち往生し、急いでメイドを呼ぶ。

そしてメイドが部屋に入ってくるやいなや命令した。

「ホーニトン夫人を起こして、離れに人を送って！魔法使いのエクアルドとウィンターウッドを連れてくるように言ってください！今すぐ！」

「は、はい！」

カリックスの姿を見て驚いたメイドは、私の命令を聞いて急いで走り去る。

私はカリックスの方を振り返った。

彼は爪で床を掻きながら苦しんでいる。

彼の呻き声を聞くたびに胸が真っ黒になるようだった。

彼のために何もできず、ただ見守るだけの時間が永遠のように感じる。

私はエクアルドとアリスが早く到着することを望んだ。

どれくらい待っただろうか。

エクアルドとアリスがついに到着した。

「ルール、大公殿下！これは一体・・・！」

「なんてこった」

部屋に入った二人が同時に口を開く。

両目を見開いてカリックスを眺めていた二人は、すぐに急いで彼のそばに近づいた。

するとカリックスが凶暴な獣のように急変し、二人を攻撃しようとする。

アリスとエクアルドは素早く防御魔法を展開して攻撃を防ぎ、魔法の鎖を作り出してカリックスの体を拘束した。

拘束されたままもがいていたカリックスは、すぐ気がついたように落ち着いてからだから力を抜く。

息を切らしながら、彼の青い目が哀れに私を見つめていた。

私は切なく彼を見つめ、無意識のうちに一歩近づく。

するとカリックスはきっぱりと首を横に振る。

来ないで。

彼はそう言っていた。

結局、私は彼の前でじっと立ち止まり、彼から視線を離すことができないまま尋ねる。

「カリックス、急にどうしたのですか？どこがどのように痛いのですか？ロチェスター城での出来事・・・、私に隠そうとしたのはこれですか？エクアルド、あなたは知っていましたよね？」

「・・・」

エクアルドの答えはすぐには聞こえなかった。

私は彼が申し訳なさそうに頭を下げるのを横目で見る。

私の視線の中心はカリックスに向けられていた。

涙が込み上げてぼやける視界。

私は泣き出すように口を開く。

「カリックス。あなたに何かあったら、私は・・・！」

「ルール、落ち着いて」

アリスは私を支えて慰めてくれた。

私は涙を流しながら全身を震わせる。

今すぐにカリックスに駆けつけて彼を抱きしめたい。

彼を治してあげたかった。

私に、そんな力があったら・・・。

そうだったらどんなに良かっただろうか。

今この瞬間、私は自分の持っている才能が空虚魔法だという事実がひたすら憎かった。

「エクアルド、全部説明してください。まさか大公殿下が魔物の呪いにかかったわけではないでしょう？こんな状況になるまで、あなたは一体何をしていたのですか？」

アリスが私に代わってエクアルドを問い詰める。

躊躇ったエクアルドは金色の目で私を見つめながらゆっくりと答えた。

「実は、それより深刻です」

「・・・深刻だなんて。一体何が？」

「今、大公殿下の生命力を蝕んでいるのは魔物ではなく・・・、地獄、つまり深淵の気運です。それが殿下の体内に浸透していて、このように時々心臓を攻撃して生命力を蝕んでいるのです」

「・・・何ですって？」

私は信じられないという声で聞き返した。

深淵の魔気が体内に浸透しているなんて、一体何をすればそんな状態になるというのか。

「これは極秘事項ですが・・・。７年前、レディ・エクレイが去ってからしばらくして、首都に深淵の扉が一度開かれました」